次、何読む? nextbook.jp
ログイン

本ページはアフィリエイト広告を含みます

アメリカ社会と戦争の歴史

アメリカ社会と戦争の歴史

A・R・ミレット, 著P・マスロウスキー, 著防衛大学校戦争史研究会, 訳井上偉彦, 著ほか

先住民との戦いと植民地戦争から独立戦争、南北戦争、第二次世界大戦、冷戦から湾岸戦争まで, アメリカの歴史は、“戦争の歴史”でもあった。個人主義、楽観主義、起業家精神、自由放任主義、民主主義、強迫観念、移り気な社会というアメリカ的特質を底流において見えた新しい軍事史。 訳者あとがき────────────────────────────────────────  本書は、Allan R. Millet & Peter Maslowski, For the Common Defense: A Military History of the United States of America の全訳である。本書の翻訳にあたったのは、防衛大学校の防衛学群に所属する教官有志である。本書の翻訳に取りかかってから、とても長い期間が経過してしまった。その間、人事異動によって翻訳担当者が防衛大学校の教官から別の職務に就くことがあったが、基本的には引き続き翻訳業務を遂行した。  本書には、このような本来の職務の傍らに大勢の人々が大きな努力を払って翻訳する価値が本当にあるのだろうか。その理由の一つには、現在、アメリカの軍事史に関する権威のある通史が本書以外には存在しないことがある。アラン・ミレットとピーター・マスロウスキーの二人の大学教授は、現在のアメリカを代表する軍事史家であり、その点で、本書を「権威のあるアメリカの軍事に関する通史である」と称することは誤りではない。また、本書はすでに1984年に出版されており、この度の翻訳の対象となった著作は一九九四年に出版されたものである。したがって、本書は、これまでの十分長い間、歴史の評価を受けてきたといえるであろう。  しかしながら、1994年から今日に至るまでに様々なできごとが起こり、その中には9・11ニューヨーク同時多発テロのような重大な事件が含まれている。したがって、アメリカの軍事史として、このようなできごとに対する何らかの補足が必要になっているではないだろうか。このような不安があったので、日本語版の序文を依頼する際に、1994年版が出版されてからの変化を補足するような序文を著者にお願いした。一方、改訂に関する著者の見解は、「大幅な改訂の必要性はない」というものであった。もちろん、歴史的な経験の解釈がその都度の眼前の状況に応じて変更を迫られる事態はそれほど多くはなく、9・11事件やその後のできごとへの対応もまだ歴史的に評価するまでには至っていない。ミレット教授は、このようなわれわれの要求に対して、長文の序文をもって懇切・丁寧に答えてくれた。  ここで、本書の特色について述べておこう。本書は、アメリカの軍事的な成功の歴史だけを取り上げたいわゆる国威発揚のための著作ではない。そうではなくて、本書は、アメリカの軍事史を一般的な政治、経済や社会の歴史の中でとらえる、「新しい軍事史」の中に含まれる。このような新しい軍事史が確立されたのは、1970年代の後半から80年代にかけてである。それまでの軍事史は、戦闘における勝利の要因や教訓を汲み取ることを目的として書かれたものが多く、軍事を中心とし、戦争における主要な戦闘に焦点をあてて記述する傾向があった。しかし、勝利の要因や教訓を抽出することは、軍事を中心に分析しても実際には非常に困難なのである。また、軍事史の発展過程において、これほど人間の生活に大きな影響を与える戦争の分析が狭い軍事分野に限定されたままでよいのかという問題意識が生じた。このことが、新しい軍事史の誕生を促したといえる。  軍事分野におけるこれまでの分析を見直す動きは、軍事史のみにとどまらない。軍事史や戦略思想史の分野において、このように考察の幅が広がり、軍事を政治・経済・社会という全体の一部として捉えようとする動きは、新しい軍事史の誕生と同じ時期に始まった。このことは、戦後約30年間続いた核戦略をめぐる議論が一段落したことと関係がある。核兵器は、科学技術の発達によって破壊力の増大が極限に達したものであり、結局戦争遂行のための手段としてではなく、相手の核兵器の使用を抑止する手段としてのみ存在意義を有していた。しかし、核兵器の存在によっても、戦争や紛争の発生を抑制することはできなかった。このような発展過程の中で、現代においては、戦争という巨大な社会現象を総合的・体系的に捉えようとする傾向が強くなったのである。そして、その先駆となったのが、ピーター・パレット編、防衛大学校「戦争・戦略変遷」研究会訳『現代戦略思想の系譜――マキャベリから核時代まで』(ダイヤモンド社、1989年)である。 『現代戦略の系譜』は、当時防衛大学校で問題となっていた「戦略の科目において何を教えるべきか」を検討するために設置された教官有志の研究会において、その研究の一環として翻訳されたものである。われわれは、『アメリカ社会と戦争の歴史――連邦防衛のために』を防衛大学校における教育のための副読本とすることを意図して翻訳にあたったが、同時にわが国における新しい軍事史の発展に寄与することを期待した。  翻訳を通じて改めて感ずることは、アメリカ社会における軍事の非効率性である。アメリカ社会では、植民地時代の民兵の伝統、その後のアメリカ大統領と連邦議会の関係などによって政治と軍事の関係が規定され、そこでは必ずしも効率性の原則が支配的であったわけではない。ある国における政治と軍事の関係は、特に第一次世界大戦を前にした主要国とアメリカを比較した場合に顕著である。また、第二次世界大戦を前にした日本とアメリカにおいても、その差異が明確に現れている。これは、軍隊に対する文民統制の重要性を表しており、どちらがその国民にとって幸せな結果をもたらしたのかはいうまでもない。文民統制とは、ある国の歴史や伝統に基づく制度であって、軍事に対する政治の優位という大まかな規範はあったとしても、単一の具体的な規則があるわけではない。  その一方で、本書は、戦争の歴史に関するものであり、そこには人道主義や博愛主義の入り込む余地は当然のことながら少ない。南北戦争は、アメリカの歴史上最大の犠牲者を出した長期間にわたる戦争であり、人類史上初めての近代戦と呼ばれている。それは、南北で徴兵制が導入され、全面戦争として市民のすべてに戦争に貢献することが要求されるようになったからである。南北戦争にみられるように、戦争における重荷を負担し、これに耐える力は、国家の存在にかかわる重要な要素である。このような意味で、本書の中から印象的な部分を取り上げてみよう。  第二次世界大戦中、アメリカは、イギリスからヨーロッパ大陸に対する戦略爆撃を行なっていた。エーカー中将の率いる第八空軍は、1943年8月17日、ドイツのシュバインフルトとレーゲンスブルクの空襲を行なった。同行掩護の戦闘機を欠いていたため、315機のB-17爆撃機のうち60機が撃墜され、各機あたり10名の搭乗員が犠牲になった。また、10月にドイツへ向かった230機の爆撃機のうち60機が失われた。第八空軍の搭乗員の損耗率は、毎月30%に達した。このような損耗率の高さから、イギリス空軍は戦略爆撃の目標を夜間の都市爆撃に切り替えたが、アメリカ空軍は昼間の精密爆撃によるドイツの産業基盤に対する戦略爆撃を続けた。ようやく一九四四年になってからこのような大量の損耗が出なくなったが、それは、P-38ライトニングやP-47サンダーボルト戦闘機による同行掩護が可能になったからである。そして、われわれは、このようなできごとから、戦争における人間の意志の力や信念の重要性を学ぶことができる。  われわれは、本書が日本における新しい軍事史の発展や戦争・軍事に対する総合的・体系的な理解に貢献することを切に期待している。また、最後になったが、われわれの努力を支え続けてくれた彩流社社長竹内淳夫氏に心から感謝する次第である。    2011年4月                         翻訳者を代表して  川村 康之

出版社
彩流社
発売日
2011-06-27
ページ数
946ページ
ISBN
9784779115882

詳細はこちらから

Amazonで見る

シェアする

みんなのレビュー

まだ評価がありません。

まだレビューがありません。