
聞書水俣民衆史 5
第五巻「植民地は天国だった」1925〜1948年頃 ▼水俣の村と工場の道をたどつていくと、朝鮮に出る。いやでも、植民地の問題が、正面に立ちはだかってくる。歴史的な経緯を記すのは、やさしい。日本窒素は、アンモニア合成に成功するや、直ちに朝鮮赴戦江に二〇万キロの大発電所を作り、興南に硫安年産五〇万トン(当時世界第三位)という巨大化学工場を建設する。興南工場は、やがて総合的化学コンビナートに発展していく。水俣工場からも、多数の労働者が転勤。その親戚知人を頼り、まるで民族移動のように、水俣から人々が朝鮮に渡った。 ▼植民地は、物価は安く収入は多かった。水俣では夢にも考えられなかった、栄耀栄華な暮らしができた。出世も早かった。万国の労働者などというものはなかった。末端労働者でも、支配民族の一員だった。日本人と朝鮮人の間で、個人と個人の関係は、存在しなかった。あるものは、民族と民族の関係だけで、蔑視と憎悪に満ちていた。「朝鮮人は…と思え」という公式だけが、通用した。暴力がまかり通った。 ▼本巻は、日本窒素が、朝鮮でどのようにして大発電所や巨大工場を建設していったかに始まり、朝鮮における水俣の民衆の生きざまや意識を、克明に聞書していく。日本人労働者は、身分別に分けられた「大社宅区域」に住んだ。対するに、山の付け根にみじめな朝鮮人部落があった。工場の中での労働の有り様や朝鮮人労働者との関係は、もちろん追う。そして敗戦。世界は引っ繰り返り、日本人は社宅から追い出される。ソ連軍の駐留、飢えと病気、日本への逃亡行一。当然のことながら、本巻が、日本人民衆の記録であることは、留意して欲しい。朝鮮人で、興南の記録を作る人があるとすれば、全く別のものになり、真実の大半は、その幻の記録に記されることになるだろう。 ▼全巻にわたった聞書は、本巻でひとまず終わる。村が二巻、工場が二巻、朝鮮が一巻。水俣民衆史の意味は、読む人により、さまざまなとらえかたがあるに違いない。
- 出版社
- 草風館
- 発売日
- 1990-06-01
- ページ数
- 352ページ
- ISBN
- 9784883230341




