
アイヌの国から
歴史と文化の組み合わせ! 他人の事績を掘り起こし書き綴るということは容易なことではない。どんな人間にも、第三者には不透明な世界が、生きた時間の背後に広がっているからだ。この本は、そうした至難さを、鷲塚鷲五朗エカシ(アイヌ文化の伝承者で、かつ著者のアイヌ研究のバックボーンになった人)のドラマチックなエピソードに、アイヌ史とアイヌ文化を巧みに組み合わせることによって克服している。その組み合わせ方がとりわけ鮮やかなのは、鷲塚姓のルーツを、鷲塚鷲五朗エカシの原稿を始めとして、最上徳内の「渡島日記」、玉虫左大夫の「入北記」、松浦武四郎の「廻浦日記」「東蝦夷日誌」、知里真志保の「地名アイヌ語小辞典」及び静内町農屋に建っている「明治三年建之」の石碑文や場所請負人作成の人別帳等の史料を駆使して追求しているくだりである。この中で、著者は、和名は同化政策のあらわれであるが、しかし、多分に強制の可能性があるとした上で、鷲塚家の系図にふれてこう云っている。 「ここにも歴史の奥深いところにうずくまっている人間の群がいて、果せなかったロマンが怨念になっていそうな気がする。鷲塚姓はそんなロマンにつながっているのかもしれない」。巻末に、別章として「近代のなかの『アイヌ』」が付記されており、開道百年記念行事や旧土人保護法とアイヌ新法を介して、近代アイヌがかかえている問題が浮き彫りにされているが、この本は鷲塚鷲五朗の世界を通して描かれたアイヌ文化史ともいえよう。(須貝光夫・「コプタン」主宰) (1986.7.21 北海道新聞)
- 出版社
- 草風館
- 発売日
- 1986-06-01
- ページ数
- 220ページ
- ISBN
- 9784883230594
